色鉛筆擬人化スレ

色鉛筆擬人化。
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の、2chスレに投下した短いお話し。


『緑と罪と罰


 放課後。 俺は、いつものようにコンビニとゲーセンに寄り道した。
 夕暮れになったので、友達と別れて、駅へ向かうことにした。
 途中の住宅街にある、路地。
 いつもはここをまっすぐ行くんだけど、きまぐれの風が吹いて、ちょっと遠回りしたくなった。
 緩やかなカーブを描いている、別の道を行く。


 世界は、夕暮れ色と夜色に塗り分けられている。
 道に沿って並んだ電柱に、色のない風が吹いたかと思うと、銀色の灯が音もなく点っていく。


 T字になっているところに差し掛かった時、なにげなく、繋がっている横の道を見た。
 その瞬間、俺の心臓は。
 大きな音を俺の体内にだけ、響かせた。
「緑……」
 いつも、クールで読書ばかりしている、無口な、無愛想な少女。
 クラスの男どもは、眼鏡、目つきが悪い、可愛気がない、怖い、などと好き放題言っている。
 でも、俺は知っている。
 彼女は案外、表情豊かで、天然なところもある。
 けっこう、可愛いヤツなんだ。
 そう、俺は、知っている。
 いつも、見ていたから。


 彼女は、相変わらず本を読みながら歩いている。
 俺は思わず、角に隠れてしまう。
 いつものように気軽に、声を掛ければ良いはずなのに。
 ちょっと、顔を出して、彼女のほうを見た。


 夕日を浴びる彼女は、金色に輝いて見えた。
 本を読みながらなのに、背筋を真っ直ぐに伸ばし、美しい姿勢で歩く。
 まるで、モデル。デューク更家も真っ青だ。
 俺はつぶやく。
「やっぱ、緑って……いいな」
 ふと、手前の電柱に、コンビニの白い袋が風に揺れているのが、目に入った。
 緑もそれに気が付いたようだ。
 本を下ろし、なぜか周りをキョロキョロと見回す。
 誰もいないのを確かめているようだ。
 なにやってんだろう。興味をそそられた。
 緑は一安心したのか、電柱の影に目をやる。
 その顔は、俺ですら今まで見たことがないほど、にやけていた。
 手を前に差し出し、ゆっくり進む。
「白いニャンちゃーん、ほーら、おいでおいでー」
 ……どうやら、コンビニ袋を猫だと思っているらしい。
 向こうから見ると、ちょうどいい具合に電柱の影に隠れて、そう見えるのだろう。
 さすが緑だ。色んな意味で。
 でも、どうしよう……。声を掛けるべきか。
 緑の必死な声が聞こえる。
「ほーら、ほら。こわくないにゃー?」
 思わず、吹き出す。
「だれっ?!」
 しまった、聞かれた。仕方ない、出よう。
「やぁ」
 緑は、俺の顔を見て口を押さえ、息を呑んだ。
 夕日より赤くなっていく。
「……見てたの」
 俺は頭をかきながら、答えた。
「うん。ごめん。……でさ、その、それ、よく見てみろよ」
 緑は、怪訝な顔をして、電柱の影に目を凝らした。
 白いそれは、また吹いた風によって、ふわりと浮き、飛んで行った。
「あ」
 それだけを口から発して、緑の肩は震え出した。
 顔の赤さは、最高潮に達しているようだ。
 涙まで見える。
 俺は、何とかしたくて声を掛けようとした。
 だが、緑はそんな俺を、物凄い形相で睨むと
「馬鹿! 大っ嫌い!」
 それだけ叫んで、逃げるように走って行った。
 駅のほうに駆けていく彼女を見送りながら、俺はつぶやいた。
「……やっちまったか」




 次の日。
 緑は、いつものように自分の机で本を読んでいた。
 そこにやはり、いつものように橙や黄色がうだうだといる。


 緑に声を掛けるのは、かなり気まずかったが、でも、このままなのは、嫌だ。
 俺は思い切って、話しかけた。
「緑……あの」
 彼女は、俺をゆっくり見上げると、息を吸い込んで。
 目を伏せ、吐いた。
 うう、その態度は、もう明らかに怒ってる。
 二の句が継げないで戸惑っていると、彼女は口を開いた。
「罰として」
 俺以外のふたりが、きょとん、とした。
 俺は、血の制裁を覚悟した。
「今日から一週間、放課後はわたしと図書室に付き合う事。解った?」
 思わず、俺は声を漏らす。
「え……?」
 それは……罰、なのか? ……もしかして、まさか……緑も?
 そう考えた瞬間、俺の顔は赤くなった。
 黄色が俺と緑の間に、何かを嗅ぎ付けて、騒ぎ始める。
「なになに、どゆこと?」
 橙がそれに乗る。
「うっわー、もしかして、緑、ついにコイツと?!」
 緑は大きな音を立て、本を閉じた。
 そして、薄く笑う。ニッコリ、と言うよりは、ニヤリ、だ。
「彼には、罪を償ってもらわないといけないの」
 黄色が、まさに黄色い声を上げた。
 橙も続いた。
 だから、そういう言い方は意味深になるからさー、と、内心困りながらも、俺は、承諾した。
「解った。付き合うよ」
 それを聞いて、今度は鮮やかに。
 緑は、ニッコリと微笑んだ。


 END


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