夏の消失点

ある日、ある男が消えた。


彼はそこに、いつもいた。
高架下の、朝夕しか日の当たらない場所。


彼はその場所に、
拾い集めた大量の家財道具を置き、
棲みついていた。


植え込みの煉瓦の縁を椅子代りに、
いつも本を読んでいた。


そこは僕の出退社の途中にある。
毎日、その前を通る。
いつも、酷い臭いがした。


この夏。
ある朝。
午前とは言え、
すでに灼熱の日差し。
暑かった。


彼は、どこからか拾ってきたのであろう、
折り畳み式簡易ベッドで
日を浴びながら、寝ていた。


その貌は
汚れ果てた野球帽で覆われていて
見えない。


「よく寝られるな・・・」


そう思った。
そして、彼を見かけたのは
それが最後だった。


明くる日、家財道具だけが残っていた。
簡易ベッドもあの日のままだった。
それも次の日には、全て失われていた。


さらに次の日、別の男が
植え込みの縁に寝ていた。


以前の男の荷物より、
ひとまわり少ない家財道具を
その場所に置いて。